私は関東大震災で妻と三女を失った。両人は湯河原の天野屋に保養に行く途中、根府川で地震にあい、列車もろとも海中に沈んだのである。この不幸を聞き、一瞬意気消沈した。しかし、数秒後には猛然と責任感が湧きあがった。私は駿河銀行の頭取だ。銀行家としての使命を果たさなければならぬ。家の不幸はそれに比すれば、些細な私事である。私は全力が奮い立った。そしてただちに健脚の若い行員を集めて、支店出張所の被害状況を調べ、その所要資金の見込み額を至急本店に報告することを命じた。
- 岡野喜太郎 -
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