兄貴は優等生だから、親父に手をあげられることは、まずなかった。 殴られ役は、僕が一手に引き受けていた。いや、親父は殴るだけじゃないんだ。水を張ったバケツを両手に持って、庭に立たされるんだから。 真冬-それも、夜だぜ。雪がチラチラ降ってさ。身体は寒くて震えるわ、足は感覚が無くなるわ……。 でも、親父は僕が立っている間、晩飯を食べないで、じっと待っているんだよ。何時間でも。それでお仕置きが解除になったところで晩メシになるんだけど、その時間には、兄貴もおふくろもみんな寝ているんだ。そうすると、親父は、僕と一緒に冷たくなったご飯を食べるんだ。(親父、偉いな)と、このとき思った。 怖い親父だけど、こういう親父の姿を見て、親しみというか、(近づけたな)ってね。そんなことを感じたものだ

- 石原裕次郎 -

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